心の中をときほぐしてみた

死を覚悟したとき、阿弥陀様がいた。前から知っている、僕を包み込むような阿弥陀様。だが、決してそれだけではなかった。
僕が死んでしまったら、残された家族は嘆き悲しむだろう。父の死を理解すらできない赤子もいる。笑顔に満ちたあの生活はもどらない。経済的にも苦しくなる。自分が生きていてやれさえすれば、そんな苦しみから家族を遠ざけてあげられるのに。それでも、不可抗力だ。死なねばならない。
家族と一緒に、平凡だが平和なあの生活を、もっと送りたい。それはしがない凡夫である僕の、ささやかな希望である。それを果たせずにこの世を去らねばならないのは、とても心苦しい。しかしどうしようもない。決して、この世への執着を断ち切って、悟りきって往生しにゆくのではない。この世のことに後ろ髪を惹かれながら、阿弥陀様の世界に旅立つのである。
やはり死は恐ろしい。僕はこの世に未練たらたらだから。
すぐに還って来るぞ。
阿弥陀様の本願にいつわりはない。よけいな利益はいらない。死は怖くてもかまわない。阿弥陀様は待っている。僕はすぐに家族のもとに還る。ほかに何もいらない。
家族よ。僕はきみたちを見捨てたりしない。死を恐れるのをやめることは、きみたちを見捨てることだった。悟ったふりはしない。きみたちとずっと一緒にいたい。死にたくない。できることなら。死が僕たちを別つのが恐ろしい。阿弥陀様が、やさしい阿弥陀様が待っている。阿弥陀様が僕を、きみたちのもとに還してくれる。だから家族よ、僕はきみたちのそばにいるよ。ずっとずっと、いつまでも。どうか、このことを忘れないで。
 
そして僕は戻ってきた。死は僕たちを別つのを先延ばしにした。阿弥陀様は見守っている。またきみたちと一緒にくらすことができる。みんな、阿弥陀様を忘れないで。一緒に生きてゆこう。